DTMを今から始めようとする人、環境を変えようとする人。初めてであれ 経験者であれ、選ぶのは毎回迷うところだと思います。特に作譜ソフトの場合は DAWと比べて使用者も少ないため、使用者の意見も聞きにくくなると思います。
私は、Sibeliusを永久ライセンスで使用していましたが、2019年12月31日に再加入版が生産されなくなるので、改めて調べてみました。
その内容を含め、少し記載していこうと思います。
楽譜の必要性
そもそも楽譜は必要なのでしょうか?特に自身の趣味などで曲作りしているだけであれば、必要ないのではないか?という疑問はあって当然だと思います。私も、必要性に迫られなければ不要と思います。では、なぜ楽譜が必要なのか?その理由は、以下があるのではないでしょうか?
- 耳コピが苦手な人が真似るための手助けになる
- 埋もれて聞き取りにくいパートを確認できる
- フレーズや演奏パターンを正確に確認できる
- 作曲者が意図した表現やニュアンスが分かる
- 演奏時に暗記しなくて済む
- クラシックのように曲を後世に残すことができる
作譜ソフトでできること
作譜ソフトでできることの一例は以下になります。
- 楽譜の作成
- 楽譜の印刷
- PDF、MIDI、Music XMLなどのファイル形式でエクスポート
- MIDI、Music XMLなどのファイルの読み込み
- 音源を使うことで作成した楽譜を再生
上記を見ると「楽譜作成なら、DAWでも良いじゃないか。」と思う方もいるかと思います。しかし、DAWの作譜機能には限界があります。DAWでは、「ボーカルの楽譜が作成しにくい」「パートが増えてくると読みにくい」「楽曲全体を通した演奏と楽譜を見比べたい」「音符以外の記号が表現が難しい」「表現の幅が狭い」などの問題が出てきます。
どんな作譜ソフトがあるの?
フリーのものも含めれば非常に多くの作譜ソフトが存在しますが、有料版の代表格的な4種を以下にまとめます。
名称 メーカー | 対応OS | エディション | 最新Ver | 体験版 | 購入方法(代表例) |
Finale MI7 | Windows Mac(除:PrintMusic) | 無印 PrintMusic Notepad | 27 2014 2012 | ・PrintMusicの30日試用版 ・Notepad | ・新規購入 ・アカデミック ・クロスグレード ・バージョンアップ ・アップグレード |
Sibelius Avid | Windows Mac iPad(モバイル版) | Ultimate Artist First | 2024.06 | ・Ultimateのトライアル版 ・First | ・永久ライセンス ・月額サブスク(月払い) ・1年サブスク(月払い) ・1年サブスク(年払い) ※各々にアカデミック版あり |
Notion Presonus | Windows Mac | 通常版 | 6 | ・機能制限版 | ・フルバージョン ※Studio Oneとのセット品あり |
Dorico Steinberg | Windows Mac | Pro Elements SE iPad | 5 | ・双方の30日試用版 | ・フルバージョン ・クロスグレード ・アカデミック ・アップデート&アップグレード |
どれを選べば良いの?
初めに言いたいのは、現状ではFinale と Sibeliusのほぼ2強の状態にあります。この2つはどちらもできることの根本は変わりません。ただし、目的の差異、連携製品の有無、使い勝手が全く異なってくるので、好みが完全に分かれます。
以下では、「選ぶ基準の例」と上記の4つの作譜ソフトについて まとめます。
選ぶ基準
基準として、以下の点が明確であるか?重要と考えるか?を考えてみて下さい。
項目 | 補足 |
目的 | 単に作ることが目的か、綺麗なレイアウトに保つことが必須かです。 |
学びやすさ | 特に初心者には、参考書やネットでの情報源の多さが1つの基準になると思います。 |
連携製品 | 連携機能の有無があるので1つの基準になると思います。 |
作譜ソフトの特徴
ここからは、各作譜ソフトの特徴の一例について説明していきます。
Finaleシリーズ
Finaleシリーズの特徴は、以下になります。
項目 | 特徴 |
目的 | オーケストラ規模の楽譜作成、浄書、出版 |
学びやすさ | 多くの参考書が存在します。出版業界で長く使用されていることから、インターネットでも多くの情報を得られます。 また購入の際は、「ガイドブック付属版」もあります。 |
連携製品 | ありません。。。 |
楽譜出版業界では、何年も前から今まで業界スタンダードのソフトとして、君臨し続けています。Finaleでできないことはないと言われるほどで、少し前まではFinaleの独り勝ちの状況でした。
向き不向きで言うと、搭載されている音源などオーケストラ向けの内容になっているのが実情。現代音楽(ポップスなど)やバンド音楽については、難しく感じる所が出てくると思います。
以上より、このソフトでは「考えて曲を作る」のではなく、本当の意味で「楽譜を作成するためのツール」であると思います。
また、作譜のフローですが、非常に独特なものになっています。昔からあるため、機能は豊富です。しかし、機能の後乗せを繰り返しているためか「やりたいことを行うまでのステップが長い、分かりにくい」ということもあります。この点については、慣れてしまえば問題はないかと思います。
- 3,000個近い音楽記号の追加
- Finale version 27用テンプレート集/拡張ライブラリ(日本語版のみ)
- ミュージック・シェアリング
- MusicXML 4.0対応
- 楽譜スタイルとプレイバック設定
- 高解像度ディスプレイ対応(Windows)
詳細は、こちら
Sibeliusシリーズ
Sibelius シリーズの特徴は、以下になります。
項目 | 特徴 |
目的 | 音楽全般の楽譜作成(付属音源はオーケストラ寄り) |
学びやすさ | 多くの参考書やインターネットでの情報源があります。 |
連携製品 | ・Protools(同社のDAW) ・PhotoScore(楽譜スキャニングツール) ・AudioScore(音声認識ツール) ・Avid Scorch(iPadアプリ) |
※PhotoScore、AudioScoreは、同梱されているバンドル版も存在します。
Finaleと比べると日本のシェアはまだ少ないですが、国内外の多くの業界で使われています。Sibelius の特記すべきは、「Protoolsとの相性」「作譜のスピーディーさ」だと思います。
Protoolsの譜面エディタのデータをシームレスにSibeliusで読み込み可能です。MIDI形式などでエクスポートすることなく、Sibeliusで開いて編集可能になります!(具体的には、譜面エディタで表示させているパートの譜面に対し「Sibeliusへ送る」を実行するだけです。)この機能は、業界の中でも非常に重宝されています。
作譜のフローについては、先述のFinaleの後発ソフトだけあって、比較的見やすい楽譜を素早く作成することが可能です。Finaleと比べると、行いたいことに到着するまでの時間が圧倒的にこちらの方が早いです。メニューはMicrosoft Officeと同様のリボン表示を採用し、基本機能はほぼ迷わずに作成することが可能です。パートの追加削除・変更、譜面の改行・改ページなどはリボンの中に大きなボタンで存在しています。また、準備の手間はありますが「テキストファイルからの歌詞入力」や「五線譜に記載された構成音からの自動コード判別」なども非常に便利です。テンキーによる音符や音楽記号の切り替えも可能です。
現在の機能としては、Finaleと遜色なく争えるレベルだと考えます。そのため、作譜のフローを体験すると、Finaleに戻れないという人も多いと思います。
加えて、2021/07に、Sibelius for mobile がリリースされました。iPad の Apple Storeでのみ、購入が可能(参考URLは、こちら)です。また、デスクトップと同様のラインナップで アプリにも3つのSibeliusのバージョンがあります。Sibelius | Firstはどなたでも無料で利用できます。各シリーズの比較は 簡易版と詳細版があるので、参考にしてみて下さい。
今回の更新の目玉は、ProToolsとの連携強化に尽きます。
- Appleシリコンのネイティブサポート
- M1からM3の範囲のプロセッサを搭載したMacを対象
- SibeliusとPro Tools間でのMIDIのコピー
- 拍子記号と調号を貼り付け時の動作改善 他
- 表示の改善
- 空白拍子やユニゾンタイの表示
- サブスコアの動作
その他にも、様々なバグ修正を初め、ユーザーからの数多くの要望にも応えて改善が進んでいます。
※アップデートの詳細は、こちら。
※動作環境の詳細は、こちら。
Notion
Notion の特徴は、以下になります。
項目 | 特徴 |
目的 | 音楽全般の楽譜作成(音源は邦楽寄りのものも存在) |
学びやすさ | 多くの参考書やインターネットでの情報源があります。 |
連携製品 | Studio One(同社のDAW) iOS用Notionアプリ ※Studio Oneとのバンドル品も存在します。 |
こちらは、譜面作成ツールというよりは、DAWの譜面作成機能特化版のようなイメージです。Notionで特記すべきは「iOS用アプリの存在」「Studio Oneとの連携」でしょう。
iOS用アプリを使用することで、今回記載する作譜ソフトの中では唯一PC外でのスコアを作成、転送などの作業を時間・場所に縛られることなく行うこともできます。
DAWとの連携については、Stuidio Oneのファイル形式でエクスポートが可能です。
また、作譜ソフトの中では、非常に安価な部類に入ります。楽譜作成の頻度が高いと予想されるオーケストラに寄り過ぎたものではないということも利点かもしれません。
Doricoシリーズ
Doricoの特徴は、以下になります。
項目 | 特徴 |
目的 | 音楽全般の楽譜作成(HALion Symphonic Orchestraが付属) |
学びやすさ | 参考書もインターネットでの情報源も少ないです。 ※参考書は、「楽譜 楽譜作成ソフト Dorico入門 基本操作をやさしくガイド / スタイルノート」しか見たことがありません。 |
連携製品 | ありません。 |
こちらは、後発ゆえ上記の3つと比べて全体的には劣るところが目立ち、もう1歩が欲しい箇所が散在しています。Tab譜対応もバージョン3でようやく対応されました。バージョン3.5では、ギターのテクニックである「ハンマリング」「プリング」「タッピング」を記載できるようになりました。徐々に他の作譜ソフトに近づいている印象です。
本開発にはSibeliusの主要開発者の一部が移籍して作成しているとのことで、他の作譜ソフトよりも直感的な操作が行いやすくなっています。Doricoでは、目的に応じて5つのモード「設定/記譜/浄書/再生/印刷」が存在します。このモードはDoricoの一番の特徴かもしれません。また、Sibeliusのような「パソコンのキーボードだけで音符の入力などの操作」「レイアウトの自動調整」やFinaleのような「細かい浄書」も行えるように機能を拡張しつつあります。
また、現時点では、同社のDAW:Cubaseを始め、他のソフトとの連携機能はありません。Cubaseとの連携ができれば、ユーザー数も激増する想像は難しくないので、早く対応してほしいところです。
初めこそ躓きましたが機能もどんどん増やし、Finale / Sibeliusと共に3強になる日も遠くはなく、将来性は一番ある。それがDoricoの現状ではないでしょうか?
なお、Dorico 3.5までは、USB eLicenser ドングルが必要でしたが、2022年リリース予定のDorico4以降は不要になるようです。Steinberg ID でログインするSteinberg Licensing システムへ移行していくようです。
- 楽曲を演奏する場所や空間の配置をシミュレートしたテンプレートを多数に搭載
- フレーズの音高に応じてダイナミクスを自動的に調整
- Groove Agent SEを搭載
- MIDI トリガーリージョン機能の進化によるスラッシュ表記。
- スクラブ再生が可能に
- 楽器編集機能の強化
- MusicXML への対応を強化
※アップデートの詳細は、こちら
※ライセンスシステムの詳細はこちら
まとめ
個人的な考えも入れて、志向別で現時点でのおすすめ品を以下に示します。
- 浄書・出版用 : Finale
- 16パートを超える譜面の作成 : Finale
- Studio Oneを使用している:Notion
- Protoolsを使用している : Sibelius
- 上記以外 : Sibelius
楽器屋の店員に訊いても、作譜ソフトを使用しない人が大多数でした。Doricoは注目株ではありましたが、専門店の店員に確認しても使っている方もいない状況です。情報はまだまだ少なく本記事でも取り上げようか迷いました。しかし、私は現時点でのDoricoは後発ブランドゆえの発展途上中であり、「今後に期待する!」という状態だと考えています。それゆえ、現状では購入にも決め手に欠ける状況+進んでおすすめもしにくい状況と言えます。ほぼ完成形になってきてマイナーチェンジが多い他の作譜ソフトと比べ、半年後、1年後でのアップデートでどうなっているかが一番楽しみな作譜ソフトです。Sibeliusの元開発者が携わっているようなので、今後も注目して調査していくつもりです。
とはいえ、検討している方は、まずそれぞれに用意されている体験版(無料版)で試してみてください。使い勝手/向き不向きが必ずあります。購入前には必ず体験版を利用してみてくあださい。