DTMをする上で、必ず耳にするであろう「レイテンシー」。DTMをしている以上、切り離せないものになります。しかも、このレイテンシーはとても重要な要素になります。
この記事では、レイテンシーの「概要」や「私の考える回避策」を記載していこうと思います。
レイテンシーとは
レイテンシーとは、一言でいうと「遅延」です。何の「遅延」なのか?それは、楽器などの入力がパソコンに入り、ヘッドホンなどから音として聴こえるまでに発生する遅延時間です。楽器を弾いた時間から、自分の耳に聞こえてくる時間の差と考えてもいいでしょう。音楽を流すだけの場合は、パソコンからヘッドホンなどを経由して出力されるまでに発生する遅延時間です。これは改善はできても「0」にすることは決してできません。
レイテンシーの影響
レイテンシーによる影響は、具体的にはどういうものがあるでしょうか?以下に私が経験した事例です。
- 再生音がブツブツ途切れる
- 最終的に、再生が中断する
- MIDIキーボードの入力がDAWで遅れて認識する
- 楽器の録音による音がDAWで遅れて記録される
私の場合はノートPCで行っていたため、「レイテンシーの影響」で示した例は パソコンのスペックの問題も大きかったです。ですが、個々のDAWやプラグインのメーカー推奨スペックは満たしていました。例え推奨スペックを満たしていても、上記のような影響を受けてしまうのはよくあることでもあります。もちろんパソコンの推奨スペックを満たしていなければ、そもそも処理能力が不足しているということになります。この場合は、パソコンのスペックを見直さなければなりません。
以降では、パソコンのスペックは満たしていることを前提に説明します。
レイテンシー発生の原理
レイテンシー発生の原因は環境によって様々です。同じ機材と設定を用いてもレイテンシーの度合いが異なる場合もあります。しかしレイテンシーが発生する原理は1つなので、まず専門的な話になりますが記載します。
上記にも記載し、どのサイトでも記載がある内容ですが、入力信号(楽器の音)がパソコンに入り、出力信号が音として聴こえる間に遅延が発生しています。この間に何が起こっているのかを考えるために、オーディオインターフェースを使用した場合の音の流れを以下に記載します。
- 楽器
- オーディオインターフェース(A/D変換 ⇒ DAWにデータ送信)
- PC内(DAW上でプラグイン等の処理)
- オーディオインターフェース(DAWからデータ送信 ⇒ D/A変換)
- ヘッドホン(スピーカー)
この中のどこで遅延は起こっているでしょうか?それは、遅延の量は違えど②~④の全てで発生しています。
では、楽器を使用しない場合はどうでしょうか?
- PC内(DAW上でプラグイン等の処理)
- オーディオインターフェース(DAWからデータ送信 ⇒ D/A変換)
- ヘッドホン(スピーカー)
のようになると思いますが、①~②で発生しています。
つまり信号処理にかかる時間がそのまま遅延時間となり、パソコンやオーディオインターフェースの処理速度に大きく依存するということになります。そのため、この遅延(レイテンシー)が「0」になることは決してないのです。
オーディオインターフェースによっては、「ダイレクトモニタリング」という機能が搭載されているものがあります。これは、上記前者の②~④の箇所を経由せずに①の音を⑤に直接送ることができるものです(DRY音)。もちろん、「① ⇒ ⑤」と「① ⇒ ② ⇒ ③ ⇒ ④ ⇒ ⑤」の経路は並行して信号が通っています。この機能を用いることで、楽器で演奏した音が遅延することなく、ヘッドホン(スピーカー)から聴こえてくれるようにはなります。
もちろんデメリットもあります。もしDAW上でエフェクト音を加えるなどの加工を行う場合は、ダイレクトモニタリングで聞こえる音は加工された音(WET音)ではないことを覚えておいてください。オーディオインターフェースに MIXノブなどがあればWET音も聴くことが可能です。しかし、WET:100%にすれば、ダイレクトモニタリングを使用していない状態と同じように遅延された音になります。WET:100%でなくとも、DRY音と混じるためにDelayのエフェクターを使用したように遅れて聴こえる場合があるでしょう。
回避策
上記の「レイテンシー発生の原理」で説明した内容から、考えられうる回避策を以下に記載したいと思います。
①A/D変換、D/A変換
原因
「A」はアナログ信号、「D」はデジタル信号を指します。楽器やスピーカーで信号を扱う場合はアナログ信号でなければならず、オーディオインターフェースおよびパソコンで信号を扱うにはデジタル信号にしなければなりません。そのためのアナログ信号とデジタル信号の変換かかる時間が遅延時間となるのです。
回避策
この要因に関してはハードウェアの問題となってしまうため「機器依存」になります。そのため、回避策としては、より処理速度が早いオーディオインターフェースを用いるしか方法がありません。
②サンプリング周波数
原因
「A/D変換、D/A変換」でもう1つ考慮しないといけないのが、サンプリング周波数です。サンプルレートとも言います。あるデータの情報を1秒間に何回取得するか?を表した指標になります。通常、44.1kHzであることが多いです。この値は一般的なCDのサンプリング周波数の値で、1秒間に44100回データを取得することになります。この値は低すぎると、データ取得の間隔が短くなりデータ量も少なくなるため、データ間の「間」が遅延として表れます。
回避策
サンプリング周波数が高いほど音質は良くなり、レイテンシーも小さくなります。ただし、サンプリング周波数を高く設定するとデータを取得する回数が増えるためにCPU負荷が増加します。CPU負荷増大により処理が追い付かなくなって「レイテンシーの影響」に記載している内容と同じ現象が発生してしまう可能性があります。そのため、各々の環境と利用状況に合わせた丁度良い値を見つける必要があります。
③バッファサイズ
原因
「データ送信」の箇所では、バッファというものを利用しています。バッファとは「緩衝材」を意味します。バッファは送信されているデータが予期せず途切れないように一時的に貯めておく役割があります。バッファサイズとは、この貯めておく容量を指すのです。災害時などに断水が起きて水が供給できなくなるのを防ぐためにバケツやペットボトルで水を確保しておくようなものです。この時のバケツやペットボトルがバッファであり、各々の大きさがバッファサイズになります。この容量が大きければ備えは万全ですが貯めるための時間を要し、その時間が遅延時間となるのです。
回避策
バッファサイズが小さくすることで、緩衝用にバッファにデータを貯める時間を少なくします。これにより、遅延時間は短くなります。
注意点としては、バッファサイズが小さすぎるとバッファの「貯」「使」の回数が多くなりCPUの負荷が増します。こちらも「②サンプリング周波数」と同様に、各々の環境と利用状況に合わせた丁度良い値を見つける必要があります。
サンプリング周波数とバッファサイズには、以下の反比例の関係が成り立ちます。
レイテンシー[msec] = バッファサイズ[sample] ÷ サンプリング周波数[kHz]※ [kHz] = [1/msec]
この式から見てもレイテンシーが大きくなる時は「バッファサイズ:大」「サンプリング周波数:小」の時であることが分かっていただけると思います。
④ASIOドライバー
原因
Windows PCの初期設定のドライバーでは、レイテンシーが大きくなりやすい状況にあります。これは、音楽制作用に作られたわけではなく、あくまで通常用途を想定した作られたものだからです。ちなみに、Macでは標準のオーディオドライバーであるCore Audioが低レイテンシーのようで特に気にする必要はないと思います。(Garage Bandなど標準搭載のDAWがあるからでしょうか?)
回避策
使用するオーディオドライバーをASIOドライバーにします。ASIOドライバーとは、DAWを使用する際に必ず設定できる低レイテンシーなオーディオドライバーです。有料のDAWやオーディオインターフェースのドライバーをパソコンにインストールすると、ほぼ同時にインストールされると思います。Cubaseの場合は、Steinberg社独自の「ASIO Generic Lower Latency Driver」がインストールされます。他のオーディオインターフェースでは、その製品名を選ぶと低レイテンシーのドライバーになることが多いでしょう。ちなみに、ASIOドライバーは、Steinberg社が生み出したもののようです。これが非常に性能が良いがためにDTM界で広く浸透し、DTMでは標準の規格(デファクトスタンダード)となりました。
では、無料のDAWを使用していた場合などはどうするか?ですが、この場合は、ASIO4ALLというツールがあります。明確に推奨しているDAWはないと思いますので、自己責任で使用してみるのも良いでしょう。
⑤プラグイン
原因
DAWを動かしている際にプラグインを使用していることで発生する遅延です。DAW上で色々な加工を施す際の処理時間による遅延です。加工を施していなくても不要なプラグインが使われることでパソコンのCPUに負荷がかかり処理速度に影響して発生する遅延もあります。ちなみに、有名どころの音源である Spectrasonics系、BFDなど は、大抵動作が重くレイテンシーを発生させやすいです。エフェクト系のプラグインで特に遅延を発生しやすいプラグインは、ノイズ除去系、ミキシング系、ピッチ修正系などのリアルタイムで信号を感知・対応するプラグインが遅延をもたらす要因になります。
回避策
不要なプラグインは設定しないようにしてください。または、処理が重たいパート(トラック)をオーディオ化させて、プラグイン(トラック)自体をフリーズするのも手でしょう。
もしくは、DSP搭載のオーディオインターフェースを使用するのも手です。最近ではUniversal Audio社のものが有名ですが、「エフェクトプラグインの処理をオーディオインターフェースに搭載するDSPでやってしまおう!パソコンのCPUはもっと違う方に使っておくれ。」というものです。詳しくは本記事では記載しません。
まとめ
本記事では問い合わせや質問が多く、DTMを行う上では必ず直面する「レイテンシー」について、原因と回避策を中心に記載しました。
レイテンシーの発生は大きく分けて「オーディオインターフェース」か「パソコン(DAW)」で発生するものです。レイテンシーが気になる人は、まず以下を確認してみましょう。
- サンプリング周波数とバッファサイズを確認する
- オーディオドライバーを確認する
- プラグインを確認する
もし改善の見込みがなければ、処理を重くしているパート(トラック)をオーディオ化するのも手です。