これまで数々のドライブやプリアンプでベーシストの支持を集めてきた「Darkglass Electronics」が、「ベース専用マルチプロセッサー」という形で発売したのが「ANAGRAM」です。
近年、マルチエフェクターはDSPを搭載するなど「処理能力」「音質」の進歩が目覚ましく、ギタリスト/ベーシストの音作りに欠かせない機材となってきています。
今回テーマとして扱うDarkglass社の「ANAGRAM」も例外ではなく、ベーシストから非常に注目を集めており、入荷待ちが続いています。
本記事では、他機種との比較をしながら、そんな「ANAGRAM」の概要や特長を紹介していこうと思います。
「音質」「操作性」「使い勝手」などを知ってもらう機会になれば幸いです。
Darkglass社とは
Darkglass社(正式名称:Darkglass Electronics社)は、Douglas Castro(ダグラス・カストロ)氏によって2009年にフィンランドのヘルシンキで設立されたエフェクター製作会社です。
Darkglass社では、一例として以下のようなベース用の「プリアンプ」「ドライブペダル」を世に送り続けています。
- 「Microtubes」シリーズ
- 「Alpha- Omega」シリーズ
- 「Vintage」モデル
また、「コンボアンプ」「キャビネット」も手掛けています。
全体的に、アグレッシブな現代的サウンドと高い操作性で、多くのベーシストの信頼を得てきました。
ANAGRAMとは
ANAGRAMは、Darkglass社により開発され、2025年に登場したベース用のマルチプロセッサーです。
ダグラス氏自身が「これまでのDarkglassの集大成かつ、次世代の第一歩」と語っており、従来製品の良い所を踏襲しつつ、全く新しい音作りが可能になります。
全体的に、Quad Cortexと酷似した操作性持ち、原音に忠実なサウンドを得られます。
ざっくり以下のような仕様です。
特記すべき仕様 | 補足説明 |
6コアのDSPを搭載 | ーー |
32bit/48kHzによるオーディオ処理 | 「2ms以下」の低レイテンシー |
7インチの高輝度タッチディスプレイを搭載 | 「タップ」「長押し」「ドラッグ&ドロップ」の操作が可能。 |
横:12ブロック 縦:2行(最大24ブロック)の エフェクトチェーン | 直列・並列の双方のルーティングが可能。 |
多様なエフェクトブロックを搭載 |
|
「NAM(Neural Amp Modeler)」 「AIDA-X」に対応 | AI技術によるリアルなアンプ&エフェクトモデリング。 3rdパーティや無料のものを利用可能。 ギター用としても、使える可能性は秘めている。 |
「IR」に対応 | 3rdパーティや無料のものを利用可能。 ギター用としても、使える可能性は秘めている。 |
操作モードの切り替え | プリセット/シーン/ストンプモードが存在。 |
USB(Type-C)を搭載 | オーディオインターフェースとして利用可能 専用アプリによるプリセット管理やファームウェアアップデートが可能 |
MIDI対応 | プリセット(PCを利用)やシーン(CCを利用)の切り替えなどが可能 |
そのため、「宅録」から「ライブ」まで、幅広い用途で即戦力となりえる完成度を備えています。
他機種との比較
私が使用経験のある「Fractal」「Quad Cortex」との比較しながら、違いが出そうな「ANAGRAM」の特徴をまとめていきます。
比較する内容 | Fractal | Quad Cortex | ANAGRAM |
対象とする楽器 | ギター寄り | ギター寄り | ベース主体 |
ルーティングの自由度 | ◎
| 〇
| × or 〇
|
操作性 | 〇
| ◎
| 〇
|
運搬性 | ×
| 〇
| ◎
|
学習コスト | ×
| 〇
| ◎
|
キャプチャー機能 | 〇
| ◎
| ×
|
価格 | ×
| 〇
| ◎
|
実際の使用感
触ってみた感じ、「入力音に対して非常に素直で忠実で、音作りもしやすい!」というのが第一印象でした。
値段は高めですが、「機能」「使い勝手」「音質」などを考慮すると、安いと思いました。
エフェクター市場は近年高騰しているので、ベーシストで3つ以上のエフェクターを買うつもりなら、「まずANAGRAMを1台買ってみる」と考えても良いと思います。
特記しておきたい内容について、まとめてみました。
特徴 | 説明 |
音質 | 変な味付けはなく、素直で太く粒立ちの良い音が鳴る印象です。 入力音を大きく損なうことなく、きれいに「歪み」「空間系」などを適用できるかと思います。 ベースの良い所を引き出してくれているでしょう。 |
ルーティングの柔軟性 | ハイエンド機種の中で比較すると劣るかもしれませんが、分離させる際に、周波数帯で分けることができます。 そのため、低音域と高音域で別々のエフェクトを適用して、後でマージすることができます。 もしくは、原音の芯を活かしたい場合に、原音のルートとエフェクトを適用させるルートを分けるのも良いと思います。 これにより、原音の芯を失わずにエフェクトを適用させることができます。 |
エフェクト設定 | 「EQ」などもベースに沿った周波数帯になっていますし、扱いやすいと思います。 反応の良いタッチディスプレイ、ノブの「回転」「プッシュ」を使用した操作は、非常に快適です。 ストレスは感じません。 |
ピッチシフター | ヘッドフォンを使用したためか-1オクターブでは少しこもるような印象を受けました。 しかし、半音下げ程度であれば自然に聞こえるため、ハーフダウンチューニングの代わりとして問題なく使用することもできるかと思います。 |
グローバルEQ | 最終段に適用される6バンドEQがあります。 6つのバンドの「Gain」「Freq」「Width」を調整できます。 また、DAWなどのソフトによくある「アナライザー」も搭載されており、リアルタイムの音量(横軸:周波数)が表示されます。 そのため、本EQは「ちょっと違う」を無くすための最終調整に非常に適しています。 |
拡張性 | 1つのパッチに合計3つまでしか利用できませんが、「アンプ」「キャビネット」「IR」については、外部から入手した「NAM」「IR」を設定できるので、拡張性も高いです。 もし、使用したいモデルなどがない場合は、Tone3000(リンク)などで別途入手して利用することが可能になります。 なお、外部から入手した「NAM」「IR」は、「アプリ:Darkglass Suite」で「ANAGRAM」にインポートできます。 |
インターフェース | 小型にもかかわらず、非常に充実しています。 全て背面についていますが、以下のようなものがあります。
|
良いことばかりでは参考にならないと思いますので、個人的に残念な点も以下に挙げておきます。
残念な点 | 説明 |
PC上で動くエディターがない | 本体のタッチディスプレイでのみ編集が可能な点です。 「Fractal」「Quad Cortex」「Kemper」などはPC上で動くエディターがあるので、早く対応してほしい所です。 既存のアプリ「Darkglass Suite」は、あくまで出来上がっているプリセットの「閲覧」「管理」ができるまでに留まっています。 ただ、「Cooming Soon」というボタンがあったりと、「本体」「アプリ」共に今後のアップデートに期待が楽しみです。 |
フットスイッチの位置 | 実際に切り替えるために踏むスイッチですが、傾斜がついていません。 踵を挙げて踏むことになるため、損傷や誤操作をしないか気になりました。 |
商品情報
まとめ
Darkglass社の「ANAGRAM」は、ベーシスト目線で設計された「ベーシストのための次世代マルチプロセッサー」と言えます。
「Fractal」や「Quad Cortex」と言ったレベルの「ベースに特化した即戦力性を持つマルチエフェクター」としては、これ一択になるかと思います。
高価格帯にはなりますが、機能/音質/アップデートによる将来性などのポテンシャルを考えると、おすすめできる1台にはなります。
ぜひ、検討の参考にしてみて下さい。