私は作譜ソフトとして「Sibelius」を使用してきましたが、今後は「Dorico」をメインに利用することにしました。
このソフト変更は、「Dorico」が出た頃からずっと比較を続けて、悩んでいました。
今回は、私がDoricoへの移行を決めた理由を、Sibeliusとの比較を交えながらまとめていきます。
そもそもSibeliusとDoricoってどんなもの?
まず、それぞれどんな作譜ソフトか?を簡単にまとめてみます。
Sibelius
Finaleなどと同じで、長年にわたり音楽業界で広く使用されている楽譜作成ソフトウェアです。
Avid社によって開発され、直感的なインターフェースを特徴としています。
主に、リボンを使って操作を行うOfficeのようなスタイルと、テンキーに連動したフローティングウィンドウで編集をしていきます。
そのため、比較的簡単に調合や拍、リハーサルマークなどの書き換えが可能になっています。
また、ProToolsとのシームレスな連携がサポートされているのは、大きな強みです。
さらに、歌詞は、テキストファイルのインポートによる一括入力が可能になっています。
Dorico
Steinberg社が開発し、2016年に初版がリリースされた楽譜作成ソフトウェアです。
本開発にはSibeliusの主要開発者の一部が移籍して作成しているとのことで、他の作譜ソフトよりも直感的な操作が行いやすくなっています。
Doricoでは、目的に応じて5つのモード「設定/記譜/浄書/再生/印刷」が存在し、ユーザーが必要な作業に集中できるよう設計されています。
このモードはDoricoの一番の特徴かもしれません。
また、DAWのような感覚で編集できるモードもあり、ピアノロールでの入力も可能です。
Steinberg社の音源が標準搭載しているのも、魅力の1つでしょう。
Doricoをメインにしようとした理由
理由①:浄書における表現の自由度
私の場合は、組んでいるコピーバンドのメンバーに配布する楽譜作成などで、より見やすいものを求めていました。
その点、Doricoは浄書作業における自由度の高さが際立っています。
あらゆる出版物を想定し、DTPソフトウェアで使用されている一般的な手法をベースにページレイアウトを設定することができます。
これにより、出版物のクオリティの楽譜を手軽にくれるようになります。
| 特徴 | 詳細 |
| 楽譜要素のカスタマイズ | Doricoでは、「五線譜に割り当てるドラムキットのカスタマイズ」「スラー」「コード名の表記」などあらゆる楽譜要素を細部にわたってカスタマイズできます。 Sibeliusでも一定のカスタマイズは可能ですが、Doricoほど柔軟ではありません。 |
| 特殊表記への対応 | Doricoでは、装飾音符などのグラフィカル表現や非標準的な記譜法を使う現代音楽にも柔軟に対応していて、見やすい表現ができます。 Sibeliusでも可能ではあるのですが、「1つの音符に対する2連続の装飾音符が重なってしまう」など痒いところに手が届かない印象でした。 |
| 出力品質の高さ | Doricoは、出版物を意識しているだけあって、見栄えの美しさを最大限に引き出してくれます。考慮して設計されており、出版レベルの品質を簡単に達成できます。 Sibeliusの出力も通常利用するうえでは不便に思いませんが、たまに扱う複雑で細かい表記などで、Doricoの方が表現しやすい印象です。 |
理由②:柔軟な作譜機能と5つのモード
私の場合は、「『譜表のレイアウト』や『入力方法』を、より柔軟に調整できたらいいな」と考えていました。
Doricoは、この点においても、優れていると考えています。
| 特徴 | 詳細 |
| レイアウトのカスタマイズ | Doricoは、「浄書モード」や「レイアウトオプションの設定内」で、「5線同士の間隔」や「5線のサイズ」「音符の間隔」の変更も設定できます。 Sibeliusでも「マウスのD&D操作」で行うことはできますが、微妙な調整でページが飛ぶなど、時間がかかる印象を受けました。 |
| 入力方法の多さ | Doricoでは、「譜面でのキーボードやマウス操作による入力」「Midiデバイスの録音による入力」の他、「ピアノロール(キーエディター)」「ドラムパッド」にも対応しています。 Sibeliusでは、「ドラムパッド」はなく、「ピアノロール」で編集したい場合はDAW(ProToolsなど)上での対応になってしまいます。 |
| インターフェースの合理性 | Doricoでは、作業内容に基づいて大きく5つのモードが存在しています。これにより各ページで行うことが明確なので、何を行えば良いか迷うことは少なくなると思います。 Sibeliusでも効率的に操作する方法はありますが、人によっては慣れるまでに時間がかかる可能性があるかもしれません。 |
理由③:付属音源や現代の音楽制作環境との高い互換性
私の場合は、「簡単に高音質な音源を使いたい」「後々midi録音での作譜をするようになったら、midiデータも活用したい」という希望が強かったです。
Doricoでは、この点において、充分に満たしてくれてます。
| 特徴 | 詳細 |
| VST音源の統合 | Doricoは、HALion SonicなどのSteinbergの音源が標準ですぐ利用できます。そのため、高音質でリアルタイムでのプレビューが可能です。 Sibeliusでは、標準搭載の音源は音質が個人的に乏しく、必要ならば3rdパーティのVST音源を使うことになります。しかし、ProToolsで扱うAAXは使えないなどの不便さを感じていました。 |
| MIDI編集の強化 | Doricoは、扱えるオートメーション(cc)が多く細かい設定が可能で、プレビュー再生時にも反映されます。 SibeliusのMIDI編集機能はベロシティなどの代表的なものに限られており、細かな調整ができないこともあります。 |
理由④:将来性と今後のアップデートへの期待
私がDoricoを選んだ最後の理由が、その将来性です。
定期的なアップデートと新機能の追加を行っており、ユーザーのフィードバックを重視しています。
マニュアルを読んだ限り、バンドスコアやクラシックの楽譜作成に必要な多くの表記に柔軟に対応しています。
| 特徴 | 詳細 |
| 頻繁なアップデート | Doricoは、ユーザーからの要望に親身に答えてくれる傾向が見て取れ、アップデート頻度も比較的多めです。 Sibeliusは、近年アップデートの頻度が少なく、画期的な新機能の追加というよりは改善が多い印象があります。 |
| 将来性のある開発ロードマップ | Doricoは、後発だけあって、開発に力を入れているように感じます。 東京楽器博2024でブースで聞いた話では、Cubaseとの連携など、ユーザーの期待を超える機能を搭載するように開発中のようです。 その他、AIを活用した作曲機能(コード進行のおすすめなど)を搭載してくれたら面白そうと勝手に思っています。 |
| 公式ドキュメントの充実 | Doricoは、公式マニュアルが充実していて2000ページ弱あり、ブラウザ版とPDF版を製品購入前から見ることができます。 Sibeliusは、私はアプリ上の「ヘルプ」から閲覧する方法しか分かりませんでした。 |
Sibeliusの方が良い!ってことはないのか?
ここまで、Doricoのいいところばかり書いてきましたが、もちろんSibeliusの方が良い点があります。
中には、障害のようなものがあるかもしれませんが。。。
バンド系(軽音楽)には、不向きかも
全体的に、クラシック向けの記号や記譜に重きを置いていて、バンドスコアなどで使われるような表記は非常に少ない印象です。
また、「タブ譜の入力」の操作性が悪かったり、Sibeliusの時にできていた「歌詞の一括入力」ができません。
ギターのグリッサンドやスライドは、どう表記すればいいのよ・・・って感じですし、音が不定の「x」で記載されるようなものは、全てミュートでの表記になりそうです。
良くも悪くも、音符の長さ(デュレーション)が固定されるので、慣れるまでに非常に苦労します。
既存の音符に対して修正したい場合に、既存のデュレーションが活用されないため、意図せず異なるデュレーションでごちゃごちゃになったりします。
「歌詞入力」では、Sibeliusのように、テキストファイルのインポートなどによる一括入力が可能になってほしいです。
音符毎に入力(またはコピペ)しなければなりません。。。
オブジェクトの配置位置の調整が面倒
「オブジェクトの配置位置」の微調整で融通が利かないです。
Doricoでは出版物などの浄書も念頭にあるため、完全に位置を固定されるケースがあります。
その分細かく設定できるのですが、テキストなどはドラッグ操作での微調整などができません。
プロパティや各種設定画面での実施になります。
「スラー」「タイ」の設置場所などの調整は、「そうじゃない!」が割と多いです。
音符入力時の手間
「音符入力を開始(Shift + N)」が有効になっていないと、音符入力が全くできません。
また、先述のデュレーションの設定変更は、「音符入力を開始(Shift + N)」が無効になっていないとキーボードで変更などができないので、非常に面倒です。
慣れの問題ですが、Sibeliusだと常に音符入力が可能な状態なので、慣れるまでは不便に感じるかもしれません。
やりたい操作・設定が、どこにあるか分かりにくい
Sibeliusから移行したからであって、Finaleからの移行だとあまり感じないかもしれませんが、連桁や符尾の向きなどの設定変更までのアクセスが遠いです。
コンテキストメニューを開いて、サブメニューを見て・・・と1回の操作では済みません。
Sibeliusではショートカットキーや専用のフローティングウィンドウなどで直感的に実施できました。
また、同じような設定が色んな所に散りばめられてるため、設定の構成を把握するまでは迷うと思います。
DAW連携
今後アップデート予定とのことですが、現段階では、SibeliusとProToolsのようなDAWとの連携はできていません。
ただし、再生モードにて、DAWのような操作感で「ノート(音符)」の編集を行えるので、本格的な作曲をしない限りは事足りそうな気もしています。
とはいえ、早くアップデートしてもらえると、利用者も増えるだろうなぁ。と思っています。
サポートが不親切
マニュアルを見ても分からないので、問い合わせたところ、「マニュアルを見てください。1つの製品で10回の質問しかできないですよ?」というような対応でした。。。
「マニュアルを見ても分からない!」「同じ操作しても、想定した動作をしない!」などと言ったら、結局は障害(バグ)だったとかもありました。。。
抱える製品が多く、1つ1つ相手してたら・・・ということもあるかもしれませんが、どうにかならないものか・・・と思います。
移行時の問題は?
データの移行
DAWのような感覚で編集できるモードもありoricoとSibeliusはいずれも「MusicXML」のインポート、エクスポートに対応しています。
そのため、「MusicXML」を利用して移行すれば問題ありません。
ただし、インポート後には「符頭の形状」など、修正が必要になる所が出てくると思います。
私がすぐに気づいたのは、ギターのミュート用に符頭を「x」にしていたところが、数字に置き換わって反映されていませんでした。
操作感
こちらについては、Sibeliusの利用期間が長かったため、前述の不便な点もあってDoricoに慣れるには時間がかかりそうではあります。
しかし、Doricoはパット見で分かりやすい作りをしているので、複数回使えば少なくともどこに何があるかくらいは覚える気がします。
後は、俗にいう「左手デバイス」であったり、ショートカットを駆使して使いこなしていくことになるでしょう。
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まとめ
上記の理由から今回Doricoへの移行を決めましたが、Sibeliusは一部機能のために変わらず使い続ける可能性はあります。
そして、今回、Finaleからの移行候補として、公式がDoricoを選んだ理由もなんとなく分かった気がします。
導入する作譜ソフトに迷われている方にとって、少しでも参考になる情報があると嬉しいです。
