楽曲の演奏・制作の世界では、音源の分離や編集は重要なプロセスと言って良いと思います。
そのためのツールが数多く存在しますが、Googleなどで調べると、「RipX DAW」「Moises」「LALAL.AI」といった名前を見たことがあるかもしれません。
これらのツールは、YouTubeでもいくつか動画がアップロードされており、比較的ユーザー数もいることがうかがえます。
MoisesのHP(リンク)では、4,000万人ものユーザーがいるような記載もあります。
今回は数あるツールの中でも、「RipX DAW」「Moises」のツールの特徴を比較し、どちらがユーザーにとって最適な選択肢なのかを考察してみます。
既存曲に対する音声分離の違法性は?
この点では、利用範囲を限定して許可されている場合は、音声を分離する行為を行うことに違法性はありません。
しかし、著作権に守られた楽曲やオーディオデータに対して行うと、法に触れる可能性があります。
「分離した音声を再利用して楽曲作成する」と言ったケースが違反であり、色々なパターンで著作権や知的財産権の侵害と判断される可能性があります。
また、今は大丈夫でも、今後の法改正で、分離すること自体が違反のケースもあるのかもしれません。
こう言った内容については、用途や国によって異なり、非常に複雑です。
例えば、「個人利用なら、問題ない」とか「著作権で守られている範囲(以下、一例)」があるので、特に「個人利用の範囲を超えて利用したいが判断できない」「利用して利益を得たい」ような場合は専門家への相談が一番だと思います。
- 歌詞
- 作詞家の創作物であり、その表現は著作権で保護されます。
- 作詞家の創作物であり、その表現は著作権で保護されます。
- メロディー(曲)
- 作曲家の創作物であり、その表現は著作権で保護されます。
- 作曲家の創作物であり、その表現は著作権で保護されます。
- 録音された音源
- 音源の録音は、レコード制作会社の著作隣接権の対象となります。
楽曲を音声分離させるメリット
楽曲制作のプロセスにおける音声分離(ボーカルや楽器のパートに分離)することの意味・目的には以下のような内容が考えられます。
練習効率の向上
2Mix音源から特定の楽器を分離することで、楽曲の耳コピや練習に役立てることができます。
DAWや周辺機器の作曲環境が手元になくても、オーディオデータがあれば、「パートの抽出」「カラオケ音源」の作成できます。
これにより、耳コピでは、ギターやボーカルなど特定の楽器のパートを分離することで、細かいニュアンスが分かりやすくなります。
そのため、より音源に近い演奏方法で練習することが可能になるでしょう。
また、特定のパートに対するカラオケトラックの作成として、特定の音源をなくしたマイナスワンの作成をすることもできます。
練習だけでなく、アレンジやアドリブを試したりすることもできるでしょう。
楽曲制作の質の向上
バッキングトラックを分離することで、コード進行だけでなく、リズムパターン、演奏テクニックなどの様々な構成要素が分かりやすくなると思います。
そのため、自身の楽曲制作の引き出しが増えて、楽曲制作の質を高めることにつながるかもしれません。
また、練習の中で録音したDAWなどを利用せずに簡潔に編集したい場合は、分離させることで簡単に微調整できるツールもあります。
こういった観点では、音量バランスや音程の検討にもつなげることができるでしょう。
譜面制作の時間短縮
楽曲を分離することで、各パートの譜面づくりが格段に楽になります。
また、録音したボーカル音源を抜き出し、文字起こしと併用することで、歌詞の記載作業の時短にも非常に役立ちます。
おすすめツール
ここでは、前書きでも触れた「RipX DAW」「Moises」について、記載します。
どちらも2Mixのオーディオを各パートに分解し、音量調節などができるソフトウェアです。
これにより、分離できるパートに対して、ソロ音源やカラオケ音源を作成することも可能になります。
独断と偏見ですが、初めに表で比較し、その後それぞれのツールの特徴をまとめます。
ツール名 | RipX DAW | Moises |
分離するパート | 自動判別 | プリセットから選択 |
編集機能 | 多機能 | 音声分離に特化 |
作業スペース | ローカル | クラウド |
学習時間 | 長い(使う機能次第) | 短い |
エディション | 仕様版、有料版(2種) | 無料版、有料版(2種) |
ライセンス体系 | 永続版 | サブスクリプション |
RipX DAW(RipX DAW Pro)
大まかに言うと、「音声分離機能」「izotopeのRXの基本機能」「Melodyneなどのピッチ・タイミング補正」を扱えるツールです。
その他の機能も考慮すると、見方によっては、「音声分離機能を備え、簡易的なDAWの機能が使えるソフト」と考えてもいいかもしれません。
その主な特徴は以下の通りで、音楽制作のプロフェッショナル向けに設計されたツールと言っても過言ではないと思います。
音声分離
独自の音声分離AIを利用しているようです。
そのため、1回の処理でVocal、Piano、Guitar、Bass、Kick、Percussion、Stringsと多くのパートに分けてくれます。
なお、分離できるパートは、分離処理を実行する際に選択できます。
高度な編集機能
音声分離にとどまらず、ピアノロールでの表示も行うことが可能になっています。
そのため、各ノートに対し、クリックして音を確認しながら、ピッチ調整を行うことが可能です。
しかも、MelodyneのStudioでできるようなマルチトラックでの編集もできます。
また、ノイズや雑音などの不要な成分をノートレベルで判断し、削除することもできます。
加えて、各パートで「Low」「Mid」「High」の帯域に対して音量調整ができたり、エフェクトを適用が可能です。
ローカルベース
ファイル管理は、ローカルで行われます。
そのため、作成中のデータはネットワーク環境に依存せずに利用することが可能です。
アプリも、スタンドアローン版のみとなっています。
学習時間
基本的な音声分離だけであれば、簡単に利用できます。
しかし、多機能なツールである故、編集機能なども対応していきたいという場合は、相応の時間がかかるでしょう。
とはいえ、UIが分かりにくいわけではないので、一度理解すれば簡単に様々な機能を利用できるかと思います。。
無料版と有料版
無料版は、「21日間の試用版」という形で存在しているため、無料のまま使い続けることはできません。
有料版は、2種類のグレード「RipX DAW」「RipX DAW Pro」があります。
「RipX DAW」は、音声分離の機能をメインとし、簡単なエフェクト適用などの編集の他、コード認識、MIDIやオーディオデータのエクスポートができます。
「RipX DAW Pro」になると、「RipX DAW」の機能に、以下のような機能が追加されます。
- Audioshopツールを利用したノートに対する各種編集作業
- 音程のない音に対する編集作業
- Harmonic Editorによるノイズ除去や音色調整
- DAWとのシームレスな連携をサポートするプラグイン:RipLinkの利用
- 「RipScriptsエディター」を用いたPython3による独自ツールの作成
ライセンス体系
買い切り版の永続ライセンスです。
なお、無料でのメジャーアップデートも対応しているため、長く使い続けることが可能です。
「1年間のみメジャーアップデート対応」などの制限はありません。
Moises
音楽の解析を行い、ボーカルや各楽器のパートを分離に特化したツールと言えます。
その主な特徴は以下の通りで、趣味利用の人でも気軽に利用できるツールと言えるでしょう。
音声分離
オープンソースの音声分離AIである「Spleeter」をベースとしたAIを利用しているようです。
そのため、分離できるパート数もSpleeterに依存して多くが5パートとなっており、分離できるパートはVocals、Piano、Bass、Drumsなど様々な選択ができます。
なお、独自にカスタマイズしているのか、6パート(ギターを種類別に分離)や、7パート(ドラムのキット別に分離)で分離できるものもあります。
音楽の解析
音楽の解析を行い、ボーカルや各楽器のパートを分離して保存できます。
これにより、ユーザーは自分の音楽制作に必要なパートだけを取り出すことができます。
クラウドベース
ファイル管理は、クラウドで行われます。
そのため、スタンドアローン版の他、ブラウザ版も存在しています。
学習時間
機能を絞っている分、目的も分かりやすくシンプルで使いやすいインターフェースで、初心者でも簡単に利用することができます。
そのため、学習も比較的容易であると言え、マニュアルレスでもすぐに利用できるかと思います。
無料版と有料版
無料版は、永続的に利用し続けることができ、期間限定の試用版という扱いではありません。
ただし、「音声分離は月に5回まで」「1ファイルの制限は5分まで」「選択できる分離の構成が2種類」などの制限があります。
有料版は、2種類の形態があり、「Premium」と最上位の「Pro」があります。
上位エディションは、下位エディションの機能を全網羅し、有料版では無料版にあった制限は解除されます。
これにより、「無制限の分離回数」「1ファイルの時間制限解除」の他、分離させる組み合わせとパート数が多くなります。
また、歌詞の文字起こしや編集が可能になります。
「Pro」になると、「Hi-Fi」のサポート、AIシンガーに歌わせる「VOICE STUDIO」の利用、「VSTプラグイン」「歌詞の提案」の利用などができるようになります。
ライセンス体系
サブスクリプション版のみとなっています。
サブスクリプションをやめた場合は、無料版としての利用になります。
比較結果
上記で紹介した2つのツールは、それぞれの目的とニーズに最適化されていると言えます。
この点を考慮し、以下が言えると思います。
ツール | 対象者 |
RipX DAW | 音声分離だけでなく、高度な編集機能まで求める人向け。 「DAWとのシームレスな連携」「独自ツールの作成」を考慮する場合は、Proの検討が必要。 |
Moises | 手軽に音楽の分離を行いたい初心者や趣味レベルのユーザー向け。 「回数・曲の時間を無制限で使いたい」という場合は「Premium」の検討が必要。 |
なお、「RipX DAW」においては、「ノイズ除去」「ピッチ修正」のソフトを持っている場合は「Pro」を選ぶメリットが大分減るかと思います。
DAWとの連携も決してできないのではなく、(手間がかかりますが、)エクスポートしたMidiデータをDAW上でインポートすれば良いからです。
また、「Moises」で「Pro」を選ぶなら、他のDAWなどのソフトやサービスも検討した方が良いと感じました。
それこそ、ChatGPTやVocaloidを使えば、もっと良い結果を得られる気がします。
商品情報
まとめ
今回は、音声分離の重要性とおすすめする2つのツールについて、まとめました。
ちなみに、私はピッチ編集のソフトも検討中だったため、「RipX DAW Pro」を選択しました。
楽曲制作、練習のヒントとして、参考になれば幸いです。