クロックって何?~音楽制作で重要な役割を持つ要素~

DTMをする上で非常に重要な役割を持っているのに、あまり意識することがないであろう「クロック」。

デジタル製品で「音質が良い」「音がクリアに聞こえる」と言われるような製品は、この「クロック」の精度が高いものがほとんどです。

今回は、そんな「クロック」についてまとめていこうと思います。

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クロック(マスタークロック)とは…

簡単に言ってしまうと、デジタル信号とアナログ信号を行き来するための「タイミング」を制御する信号です。

特に、複数のデジタル製品(ハード・ソフトは不問)を利用する際に1つのクロック信号で統一管理する場合、そのクロック信号を「マスタークロック」と言います。

クロックには、「ジッター(下図の2つ目のクロック信号の誤差部分)」と呼ばれる「理想の値からの乖離」に相当する要素があります。

このジッターが理想値に近いほどクロックの精度が高くなり、「システムの安定性」「処理速度」「信頼性」などが向上します。

DTMやデジタルオーディオの世界では、精度の影響が「システム全体の音質」「信号の精度」「デジタル処理のタイミングの一貫性」に影響を及ぼし、正確で高品質な音が得られます。

そのため、音楽制作をする際には、「作業効率」にも影響が出てくるでしょう。

クロックジェネレーターについて

クロックを生成するハードウェアをクロックジェネレーターと言います。

クロックジェネレーターは、1つのハードウェアとしては、ほとんどのケースで意識されず、あまり重宝されない機材かもしれません。

というのも、基本的には、多数のデジタル機器を利用している場合にのみ必要になってくるものだからです。

仕事でスタジオなどを構築している場合を除き、「オーディオインターフェースを1つだけ利用している」ということが多いのではないでしょうか?

そのような場合、オーディオインターフェースがマスタークロックジェネレーターの役割も担うからです。

最近のオーディオインターフェースは、一定以上のクロック精度を持っているものが多いです。

TCXO(後述)レベルのクロック精度であれば、通常のDTMなどをする上では十分な役割をもつでしょう。

そのため、クロックジェネレーターを生産するメーカーも減少し、ANTELOPE、MUTEC、TASCAMといったメーカーに限定される傾向があります。

なお利用する際は、クロックジェネレーターに装備されている「WORDCLOCK OUT」「S/PDIF OUT」「ADAT OUT」などのデジタル出力端子と、受け手となるデジタル機器の「WORDCLOCK IN」「S/PDIF IN」「ADAT IN」などのデジタル入力端

子を専用のケーブルで接続する必要があります。

受け手となるデジタル機器で外部クロックを利用するための設定が必要な場合があります。

発振器の種類

発振器は、大きく5つに分類されます。

以下に、それぞれを簡単に比較した表を記載します。

一概にどれが良い!ということはなく、それぞれの特性に見合った様々な用途で使われています。

ただし、仮にオーディオインターフェースの内部クロックを使用せず、別途クロックジェネレーターを導入する場合は、内部クロックの発振器よりも上位の発振器を持つクロックジェネレーターを導入しないと、導入の意味がない可能性が出てきます。

最悪は、動作が悪化してしまうこともあるでしょう。

上位を一番家にし、下図に代表的な発振器のタイプをまとめています。

タイプ精度(年)温度安定性サイズコスト消費電力
ルビジウム
(Rb)
10^-11 非常に高い 大きい 高い 高い
オープンクリスタル
(OCXO)
10^-9 高い 中程度 高い 中程度
温度補償型クリスタル
(TCXO)
10^-6 中程度 小さい 中程度 低い
水晶
(XO)
10^-5 低い 非常に小さい 低い 非常に低い
電圧制御水晶
(VCXO)
10^-5 低い 小さい 中程度 低い
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ルビジウム(Rb)

この発振器は、ルビジウム原子の振動を利用していて、非常に安定しているのが特徴です。

長期的な安定性が高く、頻繁な調整が不要になります。

主な用途としては、「精度を求める通信機器」「測定機器」「ハイエンドオーディオ機器」などがあります。

ものによっては、100万円を超えるような機材もあります。

オープンクリスタル(OCXO)

発振器を一定の温度に保つことで、温度変動による周波数の変動を抑制するのが特徴です。

安定性が高く、広範な温度範囲で精度を維持します。

主な用途は、ルビジウム(Rb)とほぼ同等で、「通信機器」「放送機器」「ハイエンドオーディオ機器」などがあります。

温度を一定にさせるために、消費電力も高くなります。

温度補償型クリスタル(TCXO)

内蔵された温度センサーと補償回路により、温度変動を補正し、比較的高い精度を維持するのが特徴です。

主な用途は、「通信機器」「GPS」「ポータブルデバイス」などがあげられます。

一般的な製品の中で、精度を求めるような機器には搭載している可能性が高いでしょう。

水晶(XO)

水晶の機械的な振動を利用しており、温度変動により精度が影響されやすいのが特徴です。

そのため、精度も低めになっています。

主な用途は、「電子機器」「デジタル時計」「コンピュータ」など一般的なデジタル機器に利用されています。

一番身近な発振器かと思います。

電圧制御水晶(VCXO)

外部電圧により周波数を微調整することが可能で、水晶発振器(XO)よりも柔軟性があるのが特徴です。

通信機器、PLL回路、クロックリカバリ回路などに使われます。

UA Apollo X8の場合

参考として、Apollo X8の発振機について少し見てみます。

特徴説明
発振器の種類具体的にどの発振器か?は公表されていません。
商用および産業用動作温度範囲をサポートする25MHzの基本周波数を備えた標準水晶を使用しているとのことで、おそらく、温度補償型クリスタル発振器(TCXO)ではないか?と予想できます。
音楽を生業としている友人からは、OCXOレベルのクロックジェネレーターで違いを感じるとの見解を聞いています。
クロックの制御 内蔵された温度センサーと補償回路によって温度変動による周波数の変動を最小限に抑えます。
ジッター性能 具体的な数値は非公開となっていますが、業界標準以上を謳っています。

このオーディオインターフェースは、プロの世界でもスタジオ録音やミキシング、マスタリングでもよく使われています。

このことからも、高品質な環境での作業ができることが分かるかと思います。

TCXOレベル(推定)でも、十分な精度と安定性を確保していると考えられます。

Apollo X8をマスタークロックジェネレーターとする方法
Apollo X8のクロックを他のデジタル機材で利用することもできます。
その場合は、ApolloX8の「S/PDIF OUT端子」とクロックを利用するデジタル機器の「S/PDIF IN端子」を専用のケーブルで接続してください。
この時、クロック信号を受けるデジタル機器では、外部クロックを利用するように設定変更する必要があることが多いです。

どうしても、外部クロックジェネレーターが気になる場合

ここまでの記載を踏まえ、「レコーディングスタジオのような規模のシステムを構築したい!」「とことん音質を追求したい!」という人でない限りは、クロックジェネレーターの導入は不要かと思います。

一度、自身の「オーディオインターフェースの発振器の種類」や「デジタル機材の数」などを見て、考えてみると良いでしょう。

また、クロックジェネレーターをどんなに良くしても、「『モニタースピーカー』『ハードウェア』の種類」「部屋の構造」と言った試聴環境が伴っていないと、導入前後の違いを満足に感じられない可能性があります。

その上で、マスタークロックジェネレーターを導入したいという場合は、入出力端子数などを考慮して、購入すると良いでしょう。

私が色々調べた中で、おすすめ品として挙げるならコレがあれば十分!というものを1つだけ記載しておきます。

Antelope Audio OCX-HD

高性能なオーディオインターフェースやマスタークロックジェネレーターを開発・製造しているAntelope社の製品です。

OCX-HDは、同社の中でも一番スタンダードなマスタークロックジェネレーターになっています。

特徴説明
発振器の種類オーブンクリスタル発振器(OCXO)
クロックの制御
独自技術である第4世代の音響重視のクロッキング管理アルゴリズムの「Acoustically Focused Clocking(AFC)」により、さらに精度と安定性を高めている。
ジッター性能
実効値で0.1ピコ秒以下のジッターを達成し、非常に低いジッター性能を持つ。

なお、Antelopeのサポートに関しては、本国がメインとなり、自国付近を除くサポートについては手薄になっている傾向があるかと思います。

例えば、修理時などにおいて本国検証となる場合、他メーカーよりも時間がかかる場合があります。

こういう事情もあり、日本国内代理店のサポートがある他メーカーのような内容をイメージされていると、サポート行き届かないのも仕方ないようにも感じます。(日本メーカーのサポートが恵まれて過ぎてるということもあるのかもしれませんが。。。)

使えない時間を極力少なくするために、「仕様の可能性」「ユーザーの下での解決」を探ることも多かったり、知らない間にファーム更新により「障害がなくなっていた」「機能が変わっていた。」ということもあったのかもしれません。(リリースノートくらいは欲しいですが。。。)

現在は、改善に向けた活動はしているようですが、こういった過去の障害から来る悪いイメージが払拭できないのも事実だと思います。

こういったイメージもありますが、「クロック精度」については確かな実績があります。

実際に利用環境として、レコーディングスタジオ、高精度なデジタルオーディオシステムなどがあり、精度を追及する環境でエンジニアにも重宝されているようです。

商品情報

Antelope独自技術:第4世代AFCジッター管理アルゴリズムとOCXOにより高精度のクロック信号を生成

まとめ

今回は、「クロック」についてまとめてみました。

本記事が、「クロックって重要なの?」「クロックジェネレーターってどんな種類?」と言った疑問の解消につながると嬉しいです。

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